「実家が空き家のまま残っていて、相続放棄したほうがいいのか迷っている」という相談をよく見かけます。管理の負担や固定資産税を考えると手放したい気持ちがある一方で、相続放棄には期限があり、しかもプラスの財産まで手放すことになります。さらに2023年の民法改正で、放棄した後も一定の条件では空き家の管理義務が残る場合がある、という点は意外と知られていません。この記事では「そもそも相続するか、放棄するか」の判断軸に絞って、メリット・デメリットと期限、放棄後の注意点を出典つきで整理します。
この記事でわかること
- 相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月」
- 相続放棄すると空き家だけでなく、預貯金などプラスの財産も手放すことになる
- 2023年4月施行の改正民法で、放棄後も「現に占有している場合」は保存義務が残る
- 相続放棄以外に「限定承認」「相続してから解体・活用を検討する」という選択肢もある
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空き家の相続放棄とは?基本のしくみ
まず、相続放棄がどういう手続きなのかを確認しておきましょう。「相続放棄」とは、家庭裁判所に申述することで、その人が最初から相続人ではなかったことにする手続きです(民法939条)。空き家だけを放棄して預貯金は受け取る、といった選択はできず、プラスの財産・マイナスの財産をまとめて手放すことになります。
相続放棄をすると、その人の相続分は次の順位の相続人に移ります。たとえば子が全員放棄すると、次は被相続人の親、その次は兄弟姉妹という順で相続人が繰り上がっていくため、自分だけ放棄すれば解決するとは限らない点に注意が必要です。放棄する前に、次に相続人となる親族へ事前に伝えておいたほうが、後々のトラブルを避けやすいと言われています。
相続放棄の期限は3ヶ月ー「熟慮期間」の数え方
相続放棄には期限があります。民法915条1項は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、単純承認、限定承認又は放棄をしなければならない」と定めており、この3ヶ月を「熟慮期間」と呼びます。起算点は「被相続人が亡くなった日」ではなく「自分が相続人だと知った日」なので、疎遠だった親族の死亡を後から知った場合は、そこから3ヶ月とされています。
ポイント:期限に間に合わないときは伸長の申立てができる
財産の調査が終わらず3ヶ月では判断できない場合、家庭裁判所に「相続放棄の期間伸長」を申し立てることができます。期限が来る前に申し立てる必要があるため、迷っている段階で早めに家庭裁判所や司法書士・弁護士へ相談しておくと安心です。
相続放棄のデメリット、プラスの財産も失うことを忘れずに
空き家の管理や固定資産税から解放されたい気持ちはよくわかりますが、相続放棄には見落としがちなデメリットもあります。冷静に比較してみましょう。
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 相続する | 預貯金・他の不動産などプラスの財産を受け取れる | 空き家の管理・固定資産税・将来の解体費用も引き継ぐ |
| 相続放棄する | 空き家の管理義務や固定資産税から基本的に外れる | プラスの財産も一切受け取れない。占有中は保存義務が残る場合がある |
特に見落としやすいのが「相続人全員が放棄すると、空き家は最終的に相続財産清算人が選任され、国庫に引き継がれるまで処分できないまま残る」ということです。相続財産清算人の選任は家庭裁判所への申立てが必要で、予納金として数十万円〜100万円程度がかかるケースがあると言われています。誰も申立てをしなければ、空き家は宙に浮いた状態が続きます。
注意!2023年民法改正で残る「保存義務」
ここが今回いちばんお伝えしたいポイントです。相続放棄すれば管理責任から完全に解放される、と思われがちですが、実はそうとは限りません。
注意:「現に占有している場合」は保存義務が残る
2023年4月1日施行の改正民法940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対してその財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と定めています(法務省の改正民法概要資料より)。つまり、実家に同居していた・鍵を管理して定期的に様子を見に行っていたなど「占有」とみなされる状態で放棄すると、次の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで、管理の負担そのものはなくならないということです。
逆に言えば、改正前は放棄者全員に一律で保存義務があるとされていましたが、改正後は「現に占有していない」相続人(もともと実家に関わっていなかった、遠方の親族など)は保存義務を負わない、と整理されました。ご自身が空き家を「占有」していると言えるかどうかは、鍵の管理状況や訪問頻度など実態で判断される部分もあるため、不安な場合は司法書士や弁護士に確認したほうが確実です。
「占有している状態で相続放棄する」ケースでは、引き渡しが済むまで台風や積雪への備え、防犯対策を続ける必要があります。遠方に住んでいて頻繁に見に行けない方は、こうした見守り家電を使って管理の負担を減らしている方が多いようです。
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占有中の保存義務は「引き渡すまで」続くものなので、管理そのものが重荷になっているなら、無理に自分で抱え込まず解体という選択肢も検討する余地があります。相続する場合も同様に、老朽化が進んでいるなら早めに見積もりだけでも取っておくと判断がしやすくなります。
相続してから使える「国庫帰属制度」との関係
「相続放棄しなくても、いらない土地だけ国に返せるのでは」と考える方もいるかもしれません。2023年4月27日に始まった相続土地国庫帰属制度(法務省)は、たしかに不要な土地を国庫に帰属させられる制度です。ただしこの制度の対象は「土地」のみで、建物が残ったままの土地は対象外とされています。つまり空き家が建っている状態では使えず、解体して更地にしてから申請するなどの準備が必要になり、審査手数料や10年分の管理費相当額の負担金も発生します。相続放棄の代わりに気軽に使える制度ではない、という点は押さえておきたいところです。
相続放棄すべきか迷ったときの判断軸
ここまでの内容をふまえて、相続放棄を検討する際の判断軸を整理します。
①財産全体でプラスかマイナスか 空き家以外に預貯金や他の不動産があるなら、空き家の管理コストと比較して総合的に判断する必要があります。負債(借金・未払いの税金など)が多い場合は、限定承認(プラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐ方法。相続人全員での手続きが必要で実務上は利用例が少ないとされています)や相続放棄が選択肢になります。
②自分が「占有」しているかどうか 同居していない・鍵も持っていない状態であれば、放棄後の保存義務を負わない可能性が高くなります。一方で実家に住んでいた、頻繁に出入りしていたという場合は、放棄後も一定期間は管理が必要になる前提で考えたほうが現実的です。
「相続するけれど名義変更(相続登記)をどうするか」で悩んでいる場合は、相続放棄とは別の手続きになります。相続登記の期限や進め方は「相続登記の義務化、うちの空き家は大丈夫?【2027年3月期限】今から準備しておきたいこと」で詳しく解説していますので、相続する方針を固めた場合はあわせてご確認ください。
実際に占有した状態で保存義務が続く間は、湿気やカビの対策も欠かせません。空き家は人が住んでいないぶん換気ができず、畳や押入れに湿気がこもりやすいと言われています。
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相続放棄の手続きの流れ
実際に相続放棄をすると決めた場合の大まかな流れです。①戸籍謄本など必要書類を集める、②「相続放棄申述書」を作成し、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する、③家庭裁判所から届く照会書に回答する、④「相続放棄申述受理通知書」が届いたら手続き完了、という順番になります。書類の不備や判断に迷う場合は、司法書士・弁護士に相談すると進めやすいでしょう。
よくある質問
Q. 相続放棄したら、空き家の解体費用は誰が払うことになりますか?
放棄した本人が費用を負担する義務はありません。ただし「現に占有している」状態で放棄した場合は、引き渡すまでの保存義務があるため、最低限の維持管理(倒壊防止の応急対応など)が必要になる場合があります。解体そのものは、次の相続人か相続財産清算人が判断することになります。
Q. 3ヶ月の期限を過ぎてしまったらもう相続放棄できませんか?
原則として期限を過ぎると単純承認したものとみなされますが、相続財産の存在を知らなかったなど事情によっては、期限後でも相続放棄が認められた裁判例もあると言われています。個別の事情によるため、早めに家庭裁判所や専門家に相談することをおすすめします。
Q. 自分だけ相続放棄すれば、空き家問題から完全に解放されますか?
占有していなければ保存義務は基本的に負いませんが、自分の放棄によって次の順位の親族に相続権が移る点は知っておく必要があります。相続人全員が放棄すると、最終的に家庭裁判所が選任する相続財産清算人が対応するまで、空き家は宙に浮いた状態になります。
Q. 空き家だけ相続放棄して、預貯金だけ相続することはできますか?
できません。相続放棄はプラスの財産・マイナスの財産をまとめて手放す手続きのため、空き家だけを選んで放棄することはできない点に注意してください。
まとめ
空き家の相続放棄は、管理の負担や固定資産税から離れられる一方で、預貯金などプラスの財産も含めてすべて手放す手続きです。期限は「相続の開始を知った時から3ヶ月」と短く、しかも2023年の民法改正により、実家に住んでいた・占有していた場合は放棄後も一定の保存義務が残ります。まずは財産全体のプラス・マイナスを把握したうえで、ご自身が空き家を「占有」しているかどうかを確認し、迷う場合は早めに家庭裁判所や司法書士・弁護士に相談することをおすすめします。空き家・古民家全般の制度や選択肢については「古民家・空き家まとめ|空き家探し・補助金・冬支度・移住のリアル【2026年版】」もあわせてご覧ください。
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