運営者の実家は田んぼを1反、約1,000㎡持っています。空き家を調べるうち、農地だけ期限も窓口も別だと気づきました。
この記事でわかること
農地を相続したら、10か月以内に農業委員会へ届出が必要です。これとは別に、法務局への相続登記が3年以内に義務づけられています。期限も窓口も違うので、二つを並行して進めます。
- 農地法第3条の3の届出と相続登記が「別の手続き」になっている理由
- 届出書に何を書くのか(農地法施行規則が定める記載事項)
- 届出を出さないと、過料のほかに何が起きるのか
- 手放したいときの選択肢(相続土地国庫帰属制度・農地バンク・相続放棄)
- 届出をしても農地は農地のまま。宅地にするには何が要るのか
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届出と相続登記は別の手続き
「相続の手続きは登記さえすれば終わり」と思っていませんか。農地に関しては、そこで止まると片方が抜けます。農地法にもとづく届出は農業委員会へ、相続登記は法務局へ。根拠になる法律が違うので、片方を済ませてももう片方は自動的には終わりません。
農林水産省の農地相続ポータルも、「農地を相続したときは、その農地の所在地の農業委員会に届出をする必要があります」という説明と、相続登記の説明を並べて掲載しています。二つを並べて案内しているのは、片方だけでは足りないからです。
| 項目 | 農地法の届出 | 相続登記 |
|---|---|---|
| 根拠 | 農地法第3条の3 | 不動産登記法(2024年4月1日施行の義務化) |
| 窓口 | 農地がある市町村の農業委員会 | 不動産を管轄する法務局 |
| 期限 | 条文は「遅滞なく」。運用は取得を知った日からおおむね10か月以内 | 取得を知った日から3年以内 |
| 対象 | 農地・採草放牧地だけ | 宅地・建物を含む不動産すべて |
| 怠ったとき | 10万円以下の過料(農地法第69条) | 正当な理由がなければ10万円以下の過料 |
過料の額がどちらも10万円以下なので混同しやすいのですが、根拠法も窓口もまったく別です。法務省の相続登記の申請義務化のページは、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました」と定めています。施行日は令和6年4月1日です。
施行前に相続した農地も対象です。法務省は「施行日より前に開始した相続によって不動産を取得した場合であっても、相続登記をしていない場合には、相続登記の申請義務化の対象となり、令和9年3月31日まで(不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降の場合は、その日から3年以内)に相続登記をしていただく必要があります」と明記しています。何十年も名義を変えていない田んぼが実家にある場合、ここが先に効いてきます。
農地法第3条の3の届出とは
条文そのものは、拍子抜けするほど短いものです。e-Gov法令検索の農地法で第3条の3を開くと、こう書かれています。
農地又は採草放牧地について第三条第一項本文に掲げる権利を取得した者は、同項の許可を受けてこれらの権利を取得した場合、同項各号(第十二号及び第十六号を除く。)のいずれかに該当する場合その他農林水産省令で定める場合を除き、遅滞なく、農林水産省令で定めるところにより、その農地又は採草放牧地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない。(農地法第3条の3)
読みどころは、かっこ書きの「第十二号及び第十六号を除く」です。農地法第3条第1項第12号は「遺産の分割」による権利の移転を指します。つまり、遺産分割で農地を取得した人は農業委員会の許可こそ要らないものの、届出の対象からは外れない、という構造になっています。相続そのもので承継した場合も同じく届出が必要です。許可が不要であることと、何もしなくていいことは、まったく違います。
「遅滞なく」が10か月になる理由
条文には10か月という数字がありません。この期間は運用上の基準として示されているもので、各地の農業委員会が同じ形で案内しています。たとえば千葉市の農業委員会は「権利の取得を知った日からおおむね10カ月以内に農業委員会に届出が必要」と書いています。起算点が「相続が発生した日」ではなく「権利の取得を知った日」である点は、離れて暮らす相続人にとって重要です。
届出書に書くこと
何を書かされるのか分からないまま窓口へ行くのは気が重いものですが、記載事項は法令で決まっています。農地法施行規則の第19条が、届出書に記載する事項を次のように定めています。
- 権利を取得した者の氏名及び住所
- 権利を取得した農地又は採草放牧地の所在、地番及び面積
- 権利を取得した事由及び権利を取得した日
- 取得した権利の種類及び内容
- 所有権を取得した場合には、所有権を取得した者の国籍等
固定資産税の納税通知書と登記事項証明書が手元にあれば、所在・地番・面積はそこから拾えます。千葉市は添付書類として「届出書」のほか「筆別明細書(土地の筆数が多い場合)」「委任状(代理人が届出する場合)」「農地の権利を取得した状況がわかるもの」を挙げています。相続登記のように戸籍を一式そろえる必要はなく、負担はずっと軽いほうです。
届出書には「あっせん希望」の欄があります。農林水産省が示す様式例第3号の1(農地法第3条の3第1項の規定による届出書)には、記載事項の6番目として「農業委員会によるあっせん等の希望の有無」という欄があります。自分では耕せない、貸し先も分からないという段階でも、この欄で意思表示しておけば、農業委員会側が貸し手・買い手の情報を持っているときに話が進む余地が生まれます。届出を「義務を消すだけの作業」で終わらせないための欄です。
なお、自治体の様式名や案内では「農地法第3条の3第1項」という表記が使われます。現在のe-Gov法令検索で見られる条文は項に分かれていない一本の文ですが、様式名としてはこの呼び方が広く使われているので、窓口で戸惑う必要はありません。
届出を出さないと何が起きるか
「期限を過ぎたらどうなるのか」は、いちばん知りたいところだと思います。まず金銭的な話から。農地法第69条は次のように定めています。
第三条の三の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、十万円以下の過料に処する。(農地法第69条)
ただ、実際に重いのは過料よりも、その後に起きることのほうです。農地法第30条は、農業委員会に対して「毎年一回、その区域内にある農地の利用の状況についての調査」を行う義務を課しています。この利用状況調査の結果、耕作されておらず今後も耕作される見込みがない農地が見つかると、第32条にもとづいて所有者に「利用意向調査」が行われます。農業上どう使うつもりなのかを尋ねる調査です。
このとき、農業委員会が所有者を把握していなければ、その通知は届きません。第32条第3項は、相当な努力を払っても所有者等を確知できないときは、所在・地番・地目・面積などを公示し、「公示の日から起算して二月以内」に権原を証する書面を添えて申し出るよう求める、と定めています。つまり、届出をしないまま放置した農地は「所有者不明農地」として公示の対象に入りうるということです。自分の田んぼが公示されていることに気づかないまま二か月が過ぎる——これは過料よりも面倒な事態です。
届出は、罰を避けるための手続きであると同時に、「この農地の連絡先はここです」と行政に登録しておく作業でもあります。
手放したいときの三つの道
耕す人がいない、貸す当てもない。そういう農地を抱えたとき、選択肢は大きく三つに分かれます。どれも「届出を済ませたうえで」検討するものです。
1. 相続土地国庫帰属制度
相続した土地を国に引き取ってもらう制度で、法務省によれば「相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日から開始しています」。田や畑も対象で、法務省の負担金のページは宅地・田畑・森林などの種目ごとに負担金の区分を示しています。農用地については、市街化区域や用途地域が指定されている区域、農用地区域、土地改良事業の区域などに所在する場合に、面積に応じた算定が必要になる扱いです。
費用面では、法務省の制度概要ページが「審査手数料の金額は、土地一筆当たり14,000円となります」と示しています。負担金は「国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額」を納付する仕組みです。
ここで農地が引っかかりやすいのが、却下事由です。同ページは却下事由として「建物がある土地」「担保権や使用収益権が設定されている土地」「土壌汚染されている土地」「境界が明らかでない土地」を挙げています。長く耕作されていない田んぼは畦(あぜ)が崩れ、隣の田との境が分からなくなっていることがあります。この制度を視野に入れるなら、境界の確認は早い段階で着手したほうが現実的です。
2. 農地バンク(農地中間管理機構)に貸す
所有権は持ったまま、耕作だけ人に任せる道です。農林水産省の農地バンクのページは、「農地中間管理機構は、改正農業経営基盤強化促進法(令和5年4月施行)において法定化された『地域計画』に基づき、所有者不明農地、遊休農地も含め所有者等から借受け、担い手等へ貸付を行い、農地の集積・集約化を進めていきます」と説明しています。遊休農地も借受けの対象に含まれている点が、放置してしまった農地を持つ人には効いてきます。相談先は各都道府県の農地中間管理機構です。
3. 相続放棄(農地だけは選べない)
「田んぼだけ要らない」という選び方はできません。相続放棄は相続財産の全部を放棄する制度なので、実家の建物も預貯金もまとめて手放すことになります。期限も別に設定されています。空き家を含めた放棄全体の判断材料は空き家は相続放棄すべき?で整理しています。農地の側から見ると、放棄を選ぶほどの理由が農地単体にあることは多くありません。
届出をしても農地は農地のまま
届出が受理されると、ひと安心という気持ちになります。ただ、届出は「権利を取得したことを知らせる」手続きであって、土地の性格を変えるものではありません。田んぼは田んぼのままです。
宅地や駐車場にしたい場合は、農地転用の手続きが別に必要です。農地法第4条は「農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない」と定めています。自分が所有したまま転用する場合が第4条、転用を目的に売ったり貸したりする場合が第5条です。どちらも原則は許可制で、届出とは重さがまるで違います。
例外が市街化区域です。農地法第4条第1項第7号は、市街化区域内にある農地を「政令で定めるところによりあらかじめ農業委員会に届け出て、農地以外のものにする場合」を許可の対象から外しています。第5条第1項第6号にも同じ扱いがあります。相続した農地が市街化区域にあるのか、それとも市街化調整区域なのか——この一点で、その後の出口は大きく変わります。届出のために農業委員会へ行くとき、あわせて確認しておきたいところです。
税の面では、農業を続ける場合に相続税の納税猶予という制度があります。国税庁のタックスアンサーNo.4147によると、農業を営んでいた被相続人から一定の相続人が農地等を相続や遺贈で取得して農業を営む場合、農業投資価格を超える部分に対応する相続税の納税が猶予され、この農地等納税猶予税額は特例の適用を受けた農業相続人が死亡した場合等に免除されます。適用には要件があるので、農業を継ぐかどうかを決める段階で税理士に確認する価値があります。
農地付きの空き家を「買う側」の手続きは別の記事に。相続ではなく購入で農地を取得する場合は、農地法第3条の許可という別のハードルがあります。買い方の手順は農地付き空き家とは?にまとめています。
持ち続けるなら、草を止める道具から
手放す決断がつくまでのあいだも、田んぼの草は伸び続けます。耕作していない農地でも、周りの田に種を飛ばさないよう草を止めておくことは、次に貸すときの条件にも効いてきます。実家に帰省したときの半日で片がつくかどうかは、道具で決まる部分が大きいところです。
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今週のうちに確認したいこと
農地の相続は、期限が二重になっているぶん、最初の整理さえ済めば見通しが立ちやすい手続きです。順番に潰していきましょう。
相続した農地のチェックリスト
- 固定資産税の納税通知書を出し、地目が「田」「畑」の土地があるか確認する
- その農地の所在地の農業委員会に電話し、届出書の様式と受付方法、手数料の有無もあわせて確認する
- 登記事項証明書で所在・地番・面積を拾い、届出書に書き写す
- 届出書の「あっせん等の希望の有無」欄をどうするか決める
- 市街化区域か市街化調整区域かを、同じ電話で確認しておく
- 法務局で相続登記の準備を始める(期限は3年、施行前の相続は令和9年3月31日まで)
- 手放す方向なら、境界が分かる状態かどうかを先に見に行く
相続登記そのものの進め方は相続登記の義務化、うちの空き家は大丈夫?にまとめました。空き家・古民家まわりの手続きを通しで見たい方は古民家・空き家まとめをどうぞ。
届出の期限が10か月、登記が3年、窓口が別と分かれば、動き出す順番は決まります。まずは納税通知書を出すところからです。
参考にした情報
- e-Gov法令検索:農地法(第3条、第3条の3、第4条、第30条、第32条、第69条)
- e-Gov法令検索:農地法施行規則(第18条、第19条)
- 農林水産省:農地相続ポータル
- 農林水産省:様式例第3号の1 農地法第3条の3第1項の規定による届出書
- 農林水産省:農地中間管理機構(農地バンク)
- 千葉市:相続等で農地の権利を取得したときの届出(農地法第3条の3)
- 法務省:相続登記の申請義務化について
- 法務省:相続土地国庫帰属制度について
- 法務省:相続土地国庫帰属制度の概要
- 法務省:相続土地国庫帰属制度の負担金
- 国税庁:No.4147 農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例
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